「ハナコぉ……!!」

 次に襲ってきたのはあり得ないくらいの激痛だった。
 抱き留められた腕の中、息もできずに歯を食いしばって。

「貴様ぁ、よくもハナコをぉっ」
「しゅんさまっ」

 見たこともない憎悪の表情で、山田は最大の悪意を男に向けた。
 攻撃魔法が放たれる寸前、何とか(そで)をつかみ取る。

「感情に、流されてはいけませんわ……シュン様はいずれこの国の王となるお方……もっと冷静になってくださいませ……」
「しかしあやつはわたしの大事なハナコを……っ」
「犯罪者は生け捕りするのが定石(じょうせき)ですわ……殺してしまっては、口を割らせることもできませんでしょう? それに……」

 これを言ったら、山田はどんな顔をするだろう。
 死ぬほど痛いはずなのに、想像したらおかしくなって。
 自然と笑みを浮かべながら、今にも泣きそうな顔に手を伸ばした。

「わたくし、人殺しの妻などには、なりたくありませんわ……」
「ハナコ……」

 一瞬、息を飲んだ山田が、みるみるうちに冷徹な王子に戻っていって。

「わたくし死んだりいたしませんから、思う存分辣腕(らつわん)をふるってきてくださいませ。シュン様なら、この場を見事収めてくださいますでしょう?」
「ああ。もちろんだ、ハナコ」

 気絶しそうなくらいの激痛の中で、最大級の笑顔を向けた。
 うなずいてから立ち上がった山田を見送ると、本格的に意識が飛びそうになる。