何事もなく馬車に乗り込んで、ロレンツォに会わずに済んでよかった。
 山田は待てのできるおりこう犬になったけど、ロレンツォの方は相変わらずでさ。
 まるで手の付けられない野犬みたいな感じ。こっちの言うことはまるで聞かないし、自分勝手で好き放題にしてくるから対応にホトホト困ってる。

「はぁ、卒業までこれが続くのね……」
「姉上、ずいぶんと大きなため息だね。そこまで深刻にならなくても」
「深刻にもなるわよ。下手に不敬を働いて罰せられても困るし……」
「でもさ、冷静に考えてすごいことじゃない? 王子ふたりに言い寄られるなんてさ」
「うふっ、ハナコ様、やっぱりもてもて♡」

 ったく、うれしそうに言うんじゃないわよ。
 こっちは迷惑してるってのに。

「わたくしの理想の殿方は別にいるの。何もシュン様とロレンツォ様のどちらかを選ばなくっても許されるでしょう?」
「それって、なんかアレだよね。泉に落とした(オノ)の話」

 あなたが落とした斧は金の斧? それとも銀の斧? って女神様か誰かに聞かれるヤツ?
 で、男は落としたのは錆びた鉄の斧ですって正直に答えるんだよね。そしたら金銀の斧ももらえちゃうって内容。

 いや、正直に答えて山田とロレンツォ両方もらっても困るし。
 ってか、わたしは泉に王子を落とした覚えはひとつもないっ。

 ったく、ふたりとも他人事だと思って言いたい放題だよ。
 あと少しで冬休みだし、もうひと踏ん張り、頑張って耐えるんだ華子……!