()りの深い甘いマスク。
 イタリアにでもいそうなイケメン顔は、ゲームで見たスチルのままだ。

「こんな美人に名前を覚えてもらっているとは光栄だな。しかもあんた、シュン王子のお気に入りじゃないか」

 わたしの髪に手を差し込んだ状態で、ロレンツォは意地悪そう片側だけ口角を上げた。

「あんたではございませんわ。わたくしはモッリ公爵家のハナコです」
「ハナコか。変わった名だな」
「リッチ様のお国ではそうかもしれませんが、わが国では代表的な名前ですわ」

 役所の記入見本に使われるくらいにはねっ。

「ロレンツォだ。あんた、さっきそう呼んだだろう?」

 だからあんたじゃないっつうの。
 っていうか、ロレンツォはイタリーノ国の王子様なんだよね。ゲームでは友好の(あかし)にフランク学園に留学しに来てるって設定。
 そんな相手にこれ以上不敬を働くわけにもいかないし。

「もう手をお離しください、ロレンツォ様」
「なんだ? 急にしおらしくなって」

 せせら笑いながら手を引いたロレンツォ、わざとみたいに髪をひと(ふさ)さらっていって。