「雪山でハナコを運ぶことができなかっただろう? このままではいかんと思ってな。転移魔法で人を安全に運ぶコツをケンタに指導してもらったのだ」
「まぁ、ケンタに……?」

 王子の立場にもかかわらず、地位も年も下の人間に素直に教えを()うなんて。それでなくとも山田は魔力最強と(うた)われているし。

(山田って、友達だったら自慢できるレベルなんだよなぁ)

 わたしが好意を受け入れられない以上、山田との関係は卒業で終わりを迎えるんだろうな。
 公爵令嬢としてたまに顔を合わせるくらいはあるかもだけど。

「……シュン様、この手はなんですの?」
「ハナコの白魚(しらうお)のような手だな」
「そういうことではなく、なぜわたくしの手を握っていらっしゃるのですか?」
「わたしはハナコのこの手が好きなのだ。いつ触っても心地がいいからな」
「このような真似はなさらないとお約束したはずですが?」

 もう約束を反故(ほご)にしようっていうの?
 リュシアン様に言いつけんぞ、ごるぁ。

「確かに学園祭のときのような真似はしないと誓ったが。手を握るのはそれ以前にも普通にしていただろう?」

 こてんと首を傾けられても、瓶底眼鏡じゃちっとも可愛くないわい。
 でもわたしの真意がまるで伝わってないのはよぉく分かった。増長する前にくぎを刺しとかないと。