仕方なしに、歩き出した山田のうしろを少し距離を空けてついて行った。
 広い庭園に敷かれた石畳を山田は黙って進んでいく。
 振り返るとリュシアン様の姿がだいぶ小さく遠のいて。
 不安が頭をもたげかけたけど、軽く手を上げたリュシアン様がちゃんと見てるよって合図をくれた。

「ハナコ、まずは謝罪をさせてほしい」

 立ち止まった山田がじっとわたしを見下ろしてくる。そして片ひざをついたかと思うと、胸に手を当てて深く深く頭を下げた。

「本当にすまないことをした。理由が何であれ、許可なくあのような触れ方をすべきではなかった。心からそう悔いている」
「……もうお立ちになってくださいませ」

 ほっとした様子で顔を上げかけた山田だったけど。

「あの日の出来事は忘れることにいたしました。シュン様が同じ過ちを犯されない限り、わたくしから申し上げることは何もございません」

 忘れるけど、許したわけじゃない。
 言外にそれを含ませて。
 表情の読みにくい瓶底眼鏡越しにでも、山田の顔が強張(こわば)ったのがよく分かった。

「おっしゃりたいことはそれだけですか?」
「いや、事の次第だけは話させてくれないか」