「もうしばらく、この老いぼれの孫自慢につきおうてくれるかの?」
「もちろんですわ」

 リュシアン様を味方につけた今、山田からはうまく逃げ切れそうだし。
 長話聞くくらいお安いご用だよね。

「身内が言うのもなんなのだが、シュン王子は幼いころから優秀での。帝王学に剣術、馬術から魔法に至るまで、何をやらせても完璧にこなしておった」

 膝の上にあごを乗せてきたビスキュイを、リュシアン様はやさしい手つきでなでていく。
 元王様の威厳はなくて、ただの近所のおじいちゃんって感じ。
 そんなリュシアン様が少し残念そうに息をついた。

「おかげで早々に他人を見下し始めおってな。灸を据えようにもその優秀さから、苦言を呈することもままならん状態じゃった」
「あのシュン様がですか?」

 なんか意外。
 ほかの生徒にはいつでも物腰柔らかく接してるのに。

「子供のころはひねくれた可愛げのないクソガキでのぅ。何を教えてもすぐにマスターしてしまうゆえ、本人にしてみれば退屈でつまならない日々だったのやもしれん」

 懐かしむようにリュシアン様は目を細めてる。その眼差しにはなんだか愛情がこもってて。
 救いようのないほど生意気な孫でも、やっぱり可愛くて仕方なかったんだろうな。