だんだんと秋も深まって。
 今日も山田と廊下ですれ違ったけど、目礼だけしてそそくさとその場を離れた。
 そんなときはいつまでも背中に視線を感じるんだ。

 ふと周りを見ると、そこに山田がいることも多くって。
 あっちにはまだまだ未練が残ってるっぽいけど、気づかないふりを貫いてる。

 王子の想いを無視する公爵令嬢。
 なんて図式が成立している中で、周りも遠巻きにそれを見守ってるみたい。
 時々ダンジュウロウとマサトの襲撃を食らうくらいで、余計な口出しされないのは正直助かってるんだけど。

「そういえばハナコ様、お聞きになりまして?」
「なにかしら?」

 取り巻き令嬢のひとりが何やら内緒話を持ちかけてきた。
 あの一件以来、取り巻きの数も激減してる。王妃候補じゃなくなったって思ったら、みんな離れるのが早いこと早いこと。
 残っているのは昔からいる令嬢か、何も考えていないお人好しって感じ。

「ユイナ・ハセガー男爵令嬢ですわ。近ごろ見かけないと思ったら、どうやら自宅謹慎を命じられていたようですのよ」
「まぁ、自宅謹慎を?」
「何でも校則違反をしたんだとか」
「その話ならわたくしも聞きましたわ。近くに住む生徒が申しておりましたの。家の庭でぼんやりと花壇に水をまく姿を最近よく見かけるんですって」