心配する山田を説得して、屋敷に帰り着くまでジュリエッタが付き添ってくれることになった。
 あのウザい山田を振り切ってくれて、マジでありがとうジュリエッタ!

 歓喜に沸くわたしの心とは裏腹に、ふたりきりの馬車の中はやけに静かだ。

「ジュリエッタ……今日は迷惑をかけたわね」
「いいえ、ハナコ様がご無事で何よりでしたわ」

 恐る恐る話しかけるも、にっこりと返される。
 そこで会話は終了してしまった。

 ジュリエッタは伯爵令嬢で、公爵令嬢であるハナコの取り巻きのひとりだ。かといって特別に仲がいいわけでもない。

 他の令嬢のように媚びへつらうこともしてこないし、いつも物静かにハナコのそばにいるだけだった。

 きっと立場上、仕方なくハナコの取り巻きやってんだよね。
 記憶を思い出した今、そう客観視できる。

(にしても、やっぱり未希そっくり……)

 ジュリエッタと呼ぶには、もはや抵抗感がありすぎだ。それでなくても日本人形のような顔立ちだし。

「わたくしの顔がどうかいたしまして……?」
「な、なんでもないわ」

 びくっとして、ガン見していた視線を逸らした。だって、機嫌を損ねた未希ほど怖いものはないんだよ?
 そりゃ、ジュリエッタは未希じゃないって分かってるけどさ。