お城を出てようやく一息ついた。
 とはいってもまだ完全には気は抜けない。
 なんたって今は王家の馬車の中だし。王族だけが使う馬車で送迎してもらえるのも、公爵令嬢だからこその待遇ってわけ。

(家に着くまでが遠足ってことで……)

 淑女らしく姿勢を正す。おとなしく流れる景色を眺めていたら。

「きゃあっ」

 ななな何ごとっ。
 いきなり左右に大きく揺れて、そのまま馬車が急停止した。
 危うく座席から転げ落ちるとこだったじゃんっ。

「モッリ公爵令嬢様! お怪我はございませんか!?」

 慌てて確認に来た御者のおじさん、めっちゃ青ざめた顔してる。王子の客人を怪我させたとあっちゃ、責任問題になりかねないもんね。
 昔のハナコなら大激怒だったかもしれないけど。生まれ変わった新生ハナコとして、ここは大人の対応をしておこう。

「わたくしは問題ないわ。一体何があったと言うの?」
「申し訳ございません、何者かが突然、道の中央に転移魔法を使って現れたもので……」
「転移魔法で? まさかぶつかったの?」
「いえ、寸前でどうにか回避できました。そのせいで乱暴な止め方になったこと、深くお詫び申し上げます」
「謝罪など不要よ。むしろきちんと()けてくれたこと、礼を言うわ。シュン王子殿下にもそう伝えておくから安心なさい」

 上から目線な物言いでごめんなさい。そう思ったんだけど。
 御者のおじさんは感動で目が潤んでる。よっぽど処罰が怖かったんかな。