「それはそうとハナコ様。例の件はきちんと済まされましたか?」
「ええ、もちろん。そこのところは抜かりなくってよ」

 ここに来る前に、差出人不明の手紙をユイナの部屋の扉に差し込んできた。これこそが今回のイベントでわたしが(にな)う重要な役割だ。

『ふたりで会いたい。裏山の小屋で待つ』

 手紙に書かれたのはそんなメッセージ。王子の筆跡をマネてヒロインをおびき出す陰謀(インボウ)なんだけど。
 もちろんそこに王子はいなくて、邪魔なヒロインを排除しようとする悪役令嬢ハナコの目論見(もくろみ)ってわけ。

 結局は王子がヒロインを探しに行って、そのまま遭難イベントが発生。ふたりきりで夜を過ごしたユイナと山田は、ますます距離が近づくというウフフな寸法だ。

「よかったですわ。ハナコ様のことですから、また一波乱あるんじゃないかと心配しておりましたの」
「ほほほ、この程度のお使い、わたくしでも楽勝よ」

 未希の手前どや顔でうなずき返したものの、実は内心冷や汗ものだったりして。
 本当のこと言うとうっかりしてて、ユイナに渡す手紙を用意し忘れるところだったんだよね。

 この世界には要人の筆跡をそっくりマネて、偽造文書を請け負うアコギな商売があるんだけど。そこに山田の手紙を頼むの、すっかり忘れてたんだ。

 で、気づいたのが昨日の深夜。思い出したからまだよかったものの、今さら頼んでも間に合いっこないし。
 仕方ないから山田の字を上からトレースして、徹夜して自分で書いたんだけど。