やめろ、泣きたいのはわたしの方よ!
 あんたみたいなクズに純潔を捧げてしまった!


 嘆いても悔やんでも、泣いたって、もう遅い。
 あのプライドの高い陰険女が、わたしのお古を受け入れるわけがないのに。

 これまで周囲から持ち上げ続けられていたキャメロンは、どれだけ自分に自信を持っていたのだろう。
 こんな男の後悔なんてどうでもいい!



 それよりも、王家が許さないと言うのがわからない。
 セーラも言っていた「王家に目を付けられた」って?
 あの女と王家に、何の関わりがあると言うの?


 お兄様をこれ以上怒らせないように今度は言葉を選び、慎重に尋ねた。


「……教えていただけますか。
 シンシアは王家と……どんな関わりがあるのですか?」

「そうか、君は親友の事情を知らずにこいつに紹介したということか。
 まあ、君にそこまで求めるのも酷な話で、父上と俺がもっと気を付けるべきだった。
 キャメロンへの確認を怠った、その後悔しかない。 
 キャメロン、お前がハミルトンを調べろと命じたら、サイラスは直ぐに動いただろうに……」
 


 サイラス……いつも難しい顔をして、何度会っても愛想笑いさえしてくれなかった家令が、確かサイラスだった。


 シンシアの事情と言うなら、わたしが知っていたのはシンシアが結婚相手は条件を見て吟味する、と偉そうに言っていたことだけ。
 それを教えたら、キャメロンは気分を悪くするだろうと、あの女の為に黙っていてあげた。
 それが駄目だったの?



「シンシア嬢の名付け親は、王弟殿下で……
 ミドルネームのローズは、王太后様から戴いたと聞いた。
 お前達がさも特別だと振りかざす幼馴染み、だったか?
 シンシア嬢にも同様に、幼馴染みは居た。
 それが第3王子のエドワード殿下だったと言うだけの関係だ」



 王弟殿下と第3王子殿下?
 雲の上の存在の人だ。

 ……おふたりと、田舎の伯爵令嬢でしかないシンシアが?
 名付け親と幼馴染み?

 あの女にわたしは、侯爵家の身内だと何度も自慢した。 
 だって、だって教えてくれなかったから!



 泣き止んでいたキャメロンも初耳だったのか、これまで目を合わせることも出来なかったお兄様に、その血の気を失った顔を向けた。


「俺……俺、そんなの、聞いてない……」

「シンシア嬢からは聞いてないか。
 だがお前は王弟殿下とは会ったんだが、気付かなかったか」

「王弟殿下となんて!何処で会ったと言うのですか!」

「シェルフィールドのレディパトリシアの楽屋で、だ。
 あのチケットは殿下から戴いたものだ。
 名付け子の交際相手を自分の目で見てみたいと仰せになって、人伝に託された」

 
 観劇後、主演女優の楽屋に通されていた……
 そんな特別待遇を受けることの意味に疎いキャメロンからは勿論、シンシアからも聞いていない……


「確かにあの時何人か関係者が出入りしていたけれど、その中に王弟殿下が居たなんて……
 どうして兄上もシンシアも、俺に教えてくれなかったんだ!」