「そんな物騒な話ではありませんよ。
 わたしの体調が芳しくないからを理由にしてください」

 偽りとはいえ、医師の診断書も添付する。
 それを逆手に取り、精神的に脆くなっているわたしに気遣う、という名目で欠席を勧められるのは業腹だ。


 それに今回の縁組みは、こちらが婿を取るというもの。
 それ故、婚約式の誓約書もグレイソン先生が作成した物を閣下とキャメロン本人に目を通して貰うことになっていた。


 つまり、立場はハミルトンが上。
 謝罪を受ける側が、出向いて行く謂れはない。
 サザーランドの爵位が上であろうと、そこははっきりと示したかった。
 


「あいつの顔を見ても平気か?」


 あいつ……キャメロンのことね……
 あの日、わたしは「貴方のご事情は後で聞く」と言ったような気がするけれど。
 今更聞くまでもないわね。


「キャメロン・グローバーの顔出しは不要、も付け加えてください。
 言い訳を聞く気もないし、もし謝罪すると頭を下げられても、何の意味も価値もありませんから。
 精神的に耐えられないので、お会い出来ません、ということに」


 父が苦笑いをしていた。
 精神的に、は本当に便利な言葉ね。



 それから、わたしは。
 最後に、あのふたりに贈り物をしたいと告げた。


「贈り物?
 あんな奴等に何を……」

「わたしからのお願いとして……
 初恋を成就したおふたりにささやかな御祝いを贈りたいのです」


 初恋を成就した御祝い、それを聞いて父が目を伏せた。
 ……ごめんなさい、わたしは余計な一言を聞かせてしまった。
 やはり、まだまだ駄目なわたしだ。



「……彼女にはキャメロンを紹介してくれた御礼をまだ渡していなかったので、その代わりに」


 アイリスには婚約披露が済めば、きちんと御礼をしようと母と決めていた。


 一族が関係する王都の商会で、彼女と子爵夫人にはオーダーでドレスの仕立てを。
 子爵様とダレル様には何を贈ればいいか、キャメロンと相談もしていて。


 だから、その代わりに。



 主人公ふたりが、当て馬のわたしからの贈り物を喜ぶかどうかは、わからない。
 余計なことだと一蹴されてしまうかもしれない。
 

 だけど、それはわたしがもう関知するところではないから。