セーラ様にはわたしとのことを話してくれたようだし、時機を待て、と言うのがセーラ様の指示なら、それは守らなくてはならない。

 
 いつまでシンシアに恋人面されるの?
 かと言って、わたしが略奪したように言われるのも嫌だ。
 理想は彼女と別れた幼馴染みをわたしが慰めて、そこから恋に落ちた、みたいにしたい。


 以前のわたしだったら、キャメロンに遠慮なく「早くしろ」とせっつくことが出来た。
 けれど、健気な女の子アピールをしてしまったせいで、強く出られなくなってしまった。
 キャメロンに可愛いと愛される婚約者になる為には、まだ気を抜いてはいけない。
 

 とにかく、シンシアとの婚約が正式に発表されるまでには、どうにかしてくれる。
 そう信じるしかなかった。
 でも事態は全然動かない。



 もうすぐ夏休みがやって来る。
 何も知らないシンシアが領地で行われる誕生日パーティーの話をする。
 そこでキャメロンとの婚約披露をする、とか。
 3人で涼しく夏を過ごしましょう、とか。


 冗談じゃない!
 時機を待てと言われたから、黙っているだけ。 
 わたしとキャメロンがハミルトンなんかに、行くわけないでしょう!


 侯爵家の弁護士は、何してるの?
 ふたりが婚約を正式に発表してしまえば、わたしはどうなるの?
 婚約者からキャメロンを奪った女?
 

 違うわ、わたしのモノを奪おうとしたのはシンシア。
 だから取り戻しただけなの。




 そして……とうとうシンシアに見つかった。


 現場を見たシンシアは、キャメロンとの会話を拒否して美術室から出ていった。

 

「仕方なかったのよ、シンシアには可哀想なことをしちゃったけど。
 だって……わたし達はここでしか会えなくなっていたんだもの」

 
 わたしは、シンシアを見送って肩を落とすキャメロンを抱き締めて、優しく諭すように言った。
 わたしは可愛くて優しい、貴方の運命の恋人だから。





 ……でも。


 さっきは「アイリスは悪くない」とわたしを庇ってくれたけれど。
 あれは女性を悪者にする男だとシンシアに思われたくないからね。
 あの子の前では、いつも王子様の顔をしていた。



 『君と婚約したかったのは本気だった』

 
 彼がシンシアに向かって言った、その言葉で目が覚めた。


 本当はキャメロンはシンシアと別れたくないんだって。
 わたしとの運命よりも、あの子との現実を取る気だったって。




 『最終的に選ばれるのは姉上じゃない』


 ダレルに投げつけられた言葉を思い出す。
 だけど大丈夫、わたしにはセーラ様が付いている。


 わたしは子供の頃から変わらない、彼の少し癖のある金色の髪を撫でる。



 キャム、残念だったね。

 これで、シンシアとの婚約は無くなったよ。


 
 わたしと貴方は、これからもずっと一緒ね。