はいはい、こちら中野通交番です。 ただいま就寝中。

 小判をパトカーに押し込んでホッと一休み。 コーヒーでも飲むかね。
そこへ電話が、、、。 「先ほどはありがとうございました。」
「いえいえ、こちらこそたまには仕事らしい仕事が出来たんでホッとしてますよ。」 「そうなんですか?」
「だってそもそもが事件らしい事件が起きない町ですから、、、。」 「それもそうですね。 あはは。」
 「ところで川牟田さんは何をしようとして外へ出たんです?」 「たまにはお姉さんの真似をしようかと、、、。」
「え? 姉ちゃんの真似?」 「だってこれまでみんなに叱られることも無くサボってたんですよ。 やってみたいじゃないですか。」
「変なことを考えるもんだなあ。」 「変なことなのかなあ?」
 「まあいいや。 サボって何をしようと思ったんですか?」 「この辺りをブラブラしようかと、、、。」
そこで俺は思い付いた。 川牟田さんを連れて巡回しようとね。

 約束の2時になって川牟田さんが交番にやってきた。 「巡回なんて初めてです。 楽しいんでしょうねえ?」
「そればかりとは限りませんよ。」 「どういうことですか?」
「まあ行ってみれば分かります。」 そんなわけで俺たちは交番を出ていった。
 グルリとこの辺りを一周するんだけども、、、もちろん焼け跡になっているスーパーとか劇場も見て回るわけよ。 不審者が居ないかとか、事件の痕跡が無いかとか、、、。
「バス通りから劇場通りに入ります。」 「え? 劇場通り?」
「知らなかった?」 「何度か通ったことは有りますけど、そう呼ばれてることは知りませんでした。」 スーツ姿にポニーテール、、、何処にでも居そうな事務員スタイルの川牟田さんはどっか興味津々。
 ブラブラと歩きながら劇場を目指す。 以前より草が生い茂ってる気がするなあ。
「ここは何をやってたんでしょうか?」 「ストリップだよ。」
「ストリップ?」 「そうそう。 脱いでいくやつね。」
「へえ、そんなことをやってたんだ。」 川牟田さんはますます興味が湧いてきた模様で、、、。
 {信濃}という看板が叢の中に立っている。 建物の前には少しばかりの駐車場も在ったらしい。
その重くて大きな扉を開ける。 「ここも見るんですか?」
「そうだよ。 こういう吹き曝しの建物は不審者の寝床になったりするから。」 通路は割かしきれいに掃除されている。
 前に来た時にはもっとひどい状態だったのに、、、。 客席に下りていく階段を下りる。
「この辺には猫とかネズミがいっぱい居るから気を付けてね。」 「は、はい。」
 椅子の間を歩いてみる。 バタンと椅子が倒れた。
「キャーーーー!」 悲鳴を上げて川牟田さんが俺にしがみ付いてきた。
 「心配するな。 今のは幽霊のいたずらだから。」 「えーーーーーーー? 幽霊なんか居るんですかーーーーーーー?」
「そりゃそうだよ。 何処にだって幽霊は居る。 俺たちだって死んだら幽霊になるんだからね。」 「それはそうでしょうけど怖くないんですか?」
「いつも見てるからさあ、慣れちゃったよ。」 「慣れるものなんですか?」
「人にもよると思うよ。」 「私は絶対に無理だわ。」
 川牟田さんはその後、俺から離れようとはしないんだ。 劇場を出てもずっとくっ付いてる。
「恋人みたいだね。」 「恋人です。」
「え? 結婚するんでしょう?」 「それはそうなんですけどどうもうまくいきそうになくて、、、。」
「何か有ったの?」 「彼氏のお父さんがや、、、、、、なんですよ。 それで刑務所に入ってて、、、。」 「それは心配だなあ。」
 「短期間ならまだいいんですけど16年も言い渡されてしまって、、、。」 「それじゃあ確信犯だったわけね?」
「そうなんです。 だから親戚一同が反対しちゃって、、、。」 「難しい問題だなあ。」
 ブラブラと歩き回っているとショップが見えてきた。 「じゃあ私はここで、、、。」
「あいよ。 気分転換にはいつでもどうぞ。」 「ありがとうございます。」
川牟田さんがショップへ入っていくのを見届けてから俺も交番に戻ってきた。
 「たまには気分転換もいいもんだなあ。」 「たまにはなの?」
「ゲゲゲ、何で姉ちゃんが居るの?」 「居るかなと思って遊びに来た。」
「あっそう。」 「冷たいなあ。 喜んでよ。」
「誰が喜ぶかってんだ。」 「分かった。 川牟田さんが好きなのね? 呼んできてあげる。」
「わわわわ、待て待て。 それはまずいよ。」 「いいじゃないいいじゃない。 川牟田さんを呼んでくるねえ。」
 止めるのも聞かずに姉ちゃんは行ってしまった。 トホホ、、、、。
しばらくして川牟田さんと姉ちゃんが話しながらやってきた。 「良太さん 私のことが好きなんですか?」
「いきなりはっきり聞くもんだなあ。」 「たまにはいいかと、、、。」
「そりゃさあ嫌いじゃないよ。」 「じゃあ好きなのね?」
「姉ちゃん、待ちなってば。」 「私はどちらでもいいんです。 婚約が躓いてしまったところなので、、、。」
「俺だってまだまだ、、、。」 「じゃあこれから付き合っていただけませんか?」
「付き合うって言ってもなあ、、、。」 「あんた警察でしょう? はっきりしなさいよ。」
「だからさあ、姉ちゃんは黙ってて。」 「分かったわよ。」
 川牟田さんは俺の顔をジーーーーーーーーーーーーーッと見詰めてます。 緊張するなあ。
「今の話が完全に壊れたら付き合いましょう。」 「よろしくお願いします。」
 「ところでさあ、川牟田さんって何歳なの?」 「良太、若い子に年を聞くもんじゃないわよ。」
「いいじゃんか。」 「ダメだってば。」
「いいんです。 私は28歳です。」 「そこまで若くないじゃん。」
「どういう意味よ?」 「そういう意味よ。」
「そういう意味よってどういう意味よ?」 「そういう意味よってどういう意味よってそういう意味よ。」
 俺たちが謎の掛け合いをやっていると川牟田さんが思い切り吹き出した。 「ほら見ろ、笑われたじゃねえか。」
「あんたが悪いのよ。」 「あんたが悪いのよってあんたが悪いのよ。」
「あんたが悪いのよってあんたが悪いのよってあんたが悪いのよ。」 「いつまでやってるんですか?」
「このまんまずーーーーーーーーーーーーーーーーーっとやってます。」 「終わらないんですか?」
「たぶん死んでもやってるかなあ。」 「仲良しなんですねえ。」
「いやいや仲は世界一悪いと思うよ。」 「何でよーーーーー、私はこんなにあなたが好きなのにーーーーー。」
「いい加減にしろっての。」 「いい加減も匙加減も無いの。 私はあんたが好きなのよーーーーー。」
「勝手に言ってろや。 団子ブス。」 「何だって? もう一回言ってみな。」
「団子ブス 団子ブス。」 「何が団子ブスよ。 瓢箪河童。」
 「まあまあお姉さんも落ち着いて。」 川牟田さんが姉ちゃんを黙らせようとするんだけど黙りませんねえ。」
「いいの。 そういう時はこうするんだよ。」 俺が姉ちゃんの頬っぺたにキスをすると、、、。
姉ちゃんは真っ赤になって黙り込みました。 「すごーーーーい。 良太さんすごーーーーい。」
「感激されても困るんだけど、、、。」 俺たちが3人で盛り上がっていると、、、。
 「ジャンジャンバリバリドンドンドン! ジャンジャンバリバリドンドンドン!」 どっかで聞いたような声が聞こえてきた。
「川牟田さんは隠れてて。」 「分かりました。」
「やーーーーい、セクハラ野郎! 逃げてきたのか?」 「違うよ。 初犯だからってお説教だけで帰してくれたんだよ。」
「甘いなあ。 お前は初めてじゃないだろう?」 「何言うんですか? 初犯ですよ。」
「初犯だからって威張るなよ。 ボケ!」 「ひどいなあ 兄貴。」
「修行してこい。 吉本でも何処でも行ってこい。」 「そんな、、、。」
 小判が交番に入ってきた時、ドアの陰から川牟田さんがのそっと顔を出した。 「ギャーーーーーーーー!」
その顔を見た小判は慌てて吹っ飛んでいった。 「どうしたの?」
 俺も姉ちゃんもすぐには気付かなかったんだけど、川牟田さんの顔にクモの巣が張り付いていた。 「これじゃ逃げるわ。 さっさと取ってよ。」
「ごめんなさい。 隠れてたらクモの巣がいっぱいだったもんだから、、、。」 外に出てクモの巣を払い落とす川牟田さん。
「なかなか可愛いなあ。」 「そうでしょうねえ。 あたしなんかよりずーーーーーーーっといいわよねえ。」
「妬いてるの?」 「もちろんですわよ。 良太君。」
「こんな姉ちゃんに妬かれてもなあ、、、。」 「何だって?」
「こんな姉ちゃんに妬かれても嬉しくないんだよなあ。」 「いいわよいいわよ。 川牟田さんのほうがいいんでしょう?」
 そう言って交番を飛び出した姉ちゃんを追い掛ける。 「来ないでよ!」
「待て待て! 話し合おうじゃないか!」 「話し合ったって無理よ。」
 川牟田さんにも手伝ってもらってやっとの思いで姉ちゃんを捕まえる。 「ずいぶんと走ったなあ。」
「あんたが悪いのよ。」 「姉ちゃんが悪いんだよ。 勝手に飛び出すから。」
「だってだってだって、、、。 川牟田さんのほうがいいんでしょう? 若い子だし胸も大きいし、優しいし仕事も出来るし、、、。」 「あのなあ、姉ちゃんは姉ちゃんなの。」
「それだけでしょう?」 「それだけでもあれだけでもないよ。」
 「あれって何ですか?」 川牟田さんが不思議そうに聞いてきた。
「あれってのはあれですわ。」 「あれってあれなのか。」
 変な風に納得する川牟田さん、、、。 まいった。