雄太郎じいさんは劇場通りに在る金物屋の先代店主ですわ。 もう85歳とか言ってたな。
金物屋は3代目が修行中。 こいつは俺の友達なんだ。
さてさて金物屋の前にまで来ましたぞ。 「大作は居るか?」
「オー、健太じゃないか。 何か用か?」 「生き字引に会いに来たんだよ。」
「そうかそうか。 まあ中に入れ。」 大作は土間のテーブルをよけると爺さんを呼んでくれた。
「オーオー、お巡りさんじゃないか。 どうしたんだね?」 「いやいや、爺さんなら知ってるかと思って、、、、。」
雄太郎じいさんは椅子に座るとキセルを取り出した。 「用事って何だね?」
「実は交番の物置にマネキンが入ってまして、、、。」 「そのことか。」
爺さんは煙を一吐きしてから徐に口を開いた。 「あのマネキンじゃな? 和服を着てたろう?」
「そうです。」 「あれは40年前に赴任した巡査が飾っていた人形だ。 そいつの妹さんが癌で死んだんだよ。」
「癌で?」 「小宮山猛だったかな。 その妹さんは結婚したばかりだった。」
「それで?」 「闘病中に人形を買って和服を着せたんじゃ。 妹さんもそれはそれはきれいなスタイルのいい女だった。」
「でもな、人形を買ってから二か月後に死んでしまった。 猛君は悔しさのあまりに辞職して自殺したんだよ。」 「そうだったんですか。」
「以来、その人形を倉庫に仕舞い込んで誰も見らんようになった。」 「それで泣いてたわけですね?」
「あんたも巡査なら気持ちは分かるだろう。 どうか可愛がってやってくれないか?」 「分かりました。 ありがとうございました。」
素性が分かった以上放置するわけにもいかない。 交番に戻ってきた俺は人形を机の隣に立たせましたのです。
でもでもでもよく見てみると足が動くようになっているじゃあーーー理ませんか。 関節はけっこう動きますなあ。
それじゃあ立たせておくのも可哀そうだ。 そう思った俺は奥のソファーに人形を座らせておくことにした。
「いやいや、こっちを見てるんだな。 なんか緊張するじゃねえか。」 顔を少し窓のほうに向けてみる。
ゴムで作られた人形らしい。 しかしまあ関節が動くなんてすごいなあ。
そう思って良からぬことを企んでみた。 「まずは足を組ませてっと、、、。」
和服じゃしっくりこなかったりするんだけど、それはまあいいか。 腕を組ませてみる。
40年前の人形とはいえ、よくもまあここまで動かせるように作ったもんだなあ。 和服には小物が付いている。
よく見る巾着だ。 開けてみると紙が入っていた。
[妹に似せて動くように作ってもらった。
手作りで俺の希望を叶えてもらった。 妹そっくりだ。
兄貴として嬉しいよ。]
「巡査が書き残したんだな。 手作りだとかなり金も掛かってるんじゃないかなあ? 精巧だもんなあ この人形は。」
それにしても一度、体を洗わなきゃいけない。 埃が溜りに溜まってる。
髪もボサボサだし、きれいにしてやりたいなあ。 人形を見詰めていますと、、、。
「寂しかった。」って声が聞こえた。
トントントン。 またまた誰かが来たようですけど、、、。
「入ってまーす。」 トントントン。
「まだ出ませーーん。」 トントントン。
「姉ちゃん 分かってんだぞ。」 「ばれたか。」
「ばれたか、、、、じゃないよ。 仕事はどうしたの?」 「休み時間だから、、、。」
「へえ、休み時間に川牟田さんも来てるのか?」 「えーーーーーーーー!」
どうやら川牟田って名前を聞いたら怖いらしい。 (しめしめ、弱点を覚えたぞ。)
しばらくして「ありがとうございました。」って川牟田さんから電話が掛かってきた。 どうしようもないなあ。
あいつは本気でお説教をせなあかん。 舐めとるわ。
ブツブツ言いながら人形の頭を撫でております。 「頭もきれいにしたいなあ。」
「チンチンドンドンチンドンドン! チンチンドンドンチンドンドン!」 そこへまたまた小判がやってきた。
「お前さあ、もっとましな芸は無いのか?」 「有るよ。」
そうは言ったが声も何も聞こえない。 (逃げたな?)と思っていたら、、、。
「どうだった?」って聞いてきた。 「は? 何がどうだったよ?」
「小判新発明 沈黙の芸だあ。」 「ぜんぜん面白くないわ。 修行やり直してこい。 タコ。」
「それはねえよ。 これでも必死に考えたんだから、、、。」 「必死に考えてそれか。 終わってるわ。」
「ウェーン たまには喜んでよーーーーー。」 小判が壁に張り付いて干からびたヒグラシみたいに叫び始めた。
「なんだ、面白いギャグ有るじゃん。 ずーーーーーーーっとそうしてろ。」 「そんな殺生な、、、、。」
うるさい小判を無視して俺は中に入る。 「人形さんの相手してたほうがいいな。」
とはいうけれどこの人形の名前は何て言うんだろう? 古い本が並んでいる棚を漁ってみた。
すると『小宮山日記』なる本が出てきた。 (これは何だろう?)
40年前、つまりは1985年当時の日記だ。
日航機墜落事故とかなんとか書いてある。 その中に妹さんのことらしい日記が書いてあった。
『妹の真由美は大学を出てなんとか商社に入った。
そこで商社マンと付き合うことになって家を出ていった。
同棲を始めて4か月、妊娠したらしいことも分かった。
それで勢い結婚することになったんだがどうも体調が思わしくないらしい。
「妊娠してるからそれも有るんだよ。」なんて周囲の人たちには言われていたが、日に日にしんどくなってくる。
それで思い切って調べてもらった。 結果は子宮癌だった。
子供を下ろすか死ぬまで頑張るか、その選択は非常だったと思う。 でも妹は子供を産みたがっていた。
でも1年が経って状況はさらに悪くなってしまった。 入院したんだ。
見舞いに行くと麻酔で眠らされていることが多くなった。
そして6月28日、28歳で真由美は死んだんだ。
死に顔は無常にも優しく見えた。
その顔で人形を作ってもらった。
これは俺の宝物だ。』
「そこまで思っていてあんたも自殺したんか。 やり切れんかったな。」
日記を閉じた俺は人形の顔を覗いた。 「確かに優しい顔だな。」
そして物思いにふけっていると、、、。 トントントン。
「また来おったわ。」 ドアを開けると川牟田さんが、、、。
「お姉さんにきっちり仕事をしてもらったので連れてきました。」って言う。
「何もそこまで、、、。」 「いえ、お姉さんの管理を任されているので、、、。」
隣で姉ちゃんはどっかしょんぼりしている。 「後はお願いしますね。」
「分かった。」 ちょうど5時を過ぎたところだ。
川牟田さんたちは9時過ぎまで働いてるんだけど姉ちゃんは特別に今日だけ早く帰らせたんだって。
(まったくもう、、、。) そう思いながら交番に鍵を掛ける。
そしたら買い物に、、、。
「野菜が無くなってるから買ってきてね。」 いつものように母ちゃんが電話してきたんだ。
しょんぼりしている姉ちゃんを連れてスーパーへ、、、。 「さあて今日は何をしようかな?」
「何でもいいじゃない。 好きにしてよ。」 ボソッと言うから妙に気になる。
「今夜も一緒に風呂に入るか?」 「そうねえ。」
なんか素っ気ない返事が返ってきた。 姉ちゃんの脇をツンツンしてみる。
「食べたいんでしょう? 好きに食べてよ。」 槍投げ、、、じゃなかった、投げ槍になってる。
「可愛くないなあ。」 「どうせあたしは邪魔ものなのよ。」
「こらこら、そうやって塞ぎ込まれても困るんだけど、、、。」 「誰がよ?」
「俺が困るんだよ。」 「何で? いいじゃない。」
「よかねえよ。」 「いいじゃん。」
こうやって煽ってみる。 「あんまり塞いでると野菜を持って行かせるぞ。」
「やだやだ。 重たいのはやだ。」 「よしよし。 その調子。」
だんだん姉ちゃんが息を吹き返してきたから俺は野菜を置いて逃げる。
「ワー、待てーーーーーー! こらーーーーー!」 「本調子になったな。 頑張れーー!」
「何が頑張れーーーーよ!」 「今泣いたカラスがもう笑ったぞ。」
「カラスじゃないもん。 人間だもん。」 さっきまでしょぼくれていたあの顔は何だったんだろうねえ?
金物屋は3代目が修行中。 こいつは俺の友達なんだ。
さてさて金物屋の前にまで来ましたぞ。 「大作は居るか?」
「オー、健太じゃないか。 何か用か?」 「生き字引に会いに来たんだよ。」
「そうかそうか。 まあ中に入れ。」 大作は土間のテーブルをよけると爺さんを呼んでくれた。
「オーオー、お巡りさんじゃないか。 どうしたんだね?」 「いやいや、爺さんなら知ってるかと思って、、、、。」
雄太郎じいさんは椅子に座るとキセルを取り出した。 「用事って何だね?」
「実は交番の物置にマネキンが入ってまして、、、。」 「そのことか。」
爺さんは煙を一吐きしてから徐に口を開いた。 「あのマネキンじゃな? 和服を着てたろう?」
「そうです。」 「あれは40年前に赴任した巡査が飾っていた人形だ。 そいつの妹さんが癌で死んだんだよ。」
「癌で?」 「小宮山猛だったかな。 その妹さんは結婚したばかりだった。」
「それで?」 「闘病中に人形を買って和服を着せたんじゃ。 妹さんもそれはそれはきれいなスタイルのいい女だった。」
「でもな、人形を買ってから二か月後に死んでしまった。 猛君は悔しさのあまりに辞職して自殺したんだよ。」 「そうだったんですか。」
「以来、その人形を倉庫に仕舞い込んで誰も見らんようになった。」 「それで泣いてたわけですね?」
「あんたも巡査なら気持ちは分かるだろう。 どうか可愛がってやってくれないか?」 「分かりました。 ありがとうございました。」
素性が分かった以上放置するわけにもいかない。 交番に戻ってきた俺は人形を机の隣に立たせましたのです。
でもでもでもよく見てみると足が動くようになっているじゃあーーー理ませんか。 関節はけっこう動きますなあ。
それじゃあ立たせておくのも可哀そうだ。 そう思った俺は奥のソファーに人形を座らせておくことにした。
「いやいや、こっちを見てるんだな。 なんか緊張するじゃねえか。」 顔を少し窓のほうに向けてみる。
ゴムで作られた人形らしい。 しかしまあ関節が動くなんてすごいなあ。
そう思って良からぬことを企んでみた。 「まずは足を組ませてっと、、、。」
和服じゃしっくりこなかったりするんだけど、それはまあいいか。 腕を組ませてみる。
40年前の人形とはいえ、よくもまあここまで動かせるように作ったもんだなあ。 和服には小物が付いている。
よく見る巾着だ。 開けてみると紙が入っていた。
[妹に似せて動くように作ってもらった。
手作りで俺の希望を叶えてもらった。 妹そっくりだ。
兄貴として嬉しいよ。]
「巡査が書き残したんだな。 手作りだとかなり金も掛かってるんじゃないかなあ? 精巧だもんなあ この人形は。」
それにしても一度、体を洗わなきゃいけない。 埃が溜りに溜まってる。
髪もボサボサだし、きれいにしてやりたいなあ。 人形を見詰めていますと、、、。
「寂しかった。」って声が聞こえた。
トントントン。 またまた誰かが来たようですけど、、、。
「入ってまーす。」 トントントン。
「まだ出ませーーん。」 トントントン。
「姉ちゃん 分かってんだぞ。」 「ばれたか。」
「ばれたか、、、、じゃないよ。 仕事はどうしたの?」 「休み時間だから、、、。」
「へえ、休み時間に川牟田さんも来てるのか?」 「えーーーーーーーー!」
どうやら川牟田って名前を聞いたら怖いらしい。 (しめしめ、弱点を覚えたぞ。)
しばらくして「ありがとうございました。」って川牟田さんから電話が掛かってきた。 どうしようもないなあ。
あいつは本気でお説教をせなあかん。 舐めとるわ。
ブツブツ言いながら人形の頭を撫でております。 「頭もきれいにしたいなあ。」
「チンチンドンドンチンドンドン! チンチンドンドンチンドンドン!」 そこへまたまた小判がやってきた。
「お前さあ、もっとましな芸は無いのか?」 「有るよ。」
そうは言ったが声も何も聞こえない。 (逃げたな?)と思っていたら、、、。
「どうだった?」って聞いてきた。 「は? 何がどうだったよ?」
「小判新発明 沈黙の芸だあ。」 「ぜんぜん面白くないわ。 修行やり直してこい。 タコ。」
「それはねえよ。 これでも必死に考えたんだから、、、。」 「必死に考えてそれか。 終わってるわ。」
「ウェーン たまには喜んでよーーーーー。」 小判が壁に張り付いて干からびたヒグラシみたいに叫び始めた。
「なんだ、面白いギャグ有るじゃん。 ずーーーーーーーっとそうしてろ。」 「そんな殺生な、、、、。」
うるさい小判を無視して俺は中に入る。 「人形さんの相手してたほうがいいな。」
とはいうけれどこの人形の名前は何て言うんだろう? 古い本が並んでいる棚を漁ってみた。
すると『小宮山日記』なる本が出てきた。 (これは何だろう?)
40年前、つまりは1985年当時の日記だ。
日航機墜落事故とかなんとか書いてある。 その中に妹さんのことらしい日記が書いてあった。
『妹の真由美は大学を出てなんとか商社に入った。
そこで商社マンと付き合うことになって家を出ていった。
同棲を始めて4か月、妊娠したらしいことも分かった。
それで勢い結婚することになったんだがどうも体調が思わしくないらしい。
「妊娠してるからそれも有るんだよ。」なんて周囲の人たちには言われていたが、日に日にしんどくなってくる。
それで思い切って調べてもらった。 結果は子宮癌だった。
子供を下ろすか死ぬまで頑張るか、その選択は非常だったと思う。 でも妹は子供を産みたがっていた。
でも1年が経って状況はさらに悪くなってしまった。 入院したんだ。
見舞いに行くと麻酔で眠らされていることが多くなった。
そして6月28日、28歳で真由美は死んだんだ。
死に顔は無常にも優しく見えた。
その顔で人形を作ってもらった。
これは俺の宝物だ。』
「そこまで思っていてあんたも自殺したんか。 やり切れんかったな。」
日記を閉じた俺は人形の顔を覗いた。 「確かに優しい顔だな。」
そして物思いにふけっていると、、、。 トントントン。
「また来おったわ。」 ドアを開けると川牟田さんが、、、。
「お姉さんにきっちり仕事をしてもらったので連れてきました。」って言う。
「何もそこまで、、、。」 「いえ、お姉さんの管理を任されているので、、、。」
隣で姉ちゃんはどっかしょんぼりしている。 「後はお願いしますね。」
「分かった。」 ちょうど5時を過ぎたところだ。
川牟田さんたちは9時過ぎまで働いてるんだけど姉ちゃんは特別に今日だけ早く帰らせたんだって。
(まったくもう、、、。) そう思いながら交番に鍵を掛ける。
そしたら買い物に、、、。
「野菜が無くなってるから買ってきてね。」 いつものように母ちゃんが電話してきたんだ。
しょんぼりしている姉ちゃんを連れてスーパーへ、、、。 「さあて今日は何をしようかな?」
「何でもいいじゃない。 好きにしてよ。」 ボソッと言うから妙に気になる。
「今夜も一緒に風呂に入るか?」 「そうねえ。」
なんか素っ気ない返事が返ってきた。 姉ちゃんの脇をツンツンしてみる。
「食べたいんでしょう? 好きに食べてよ。」 槍投げ、、、じゃなかった、投げ槍になってる。
「可愛くないなあ。」 「どうせあたしは邪魔ものなのよ。」
「こらこら、そうやって塞ぎ込まれても困るんだけど、、、。」 「誰がよ?」
「俺が困るんだよ。」 「何で? いいじゃない。」
「よかねえよ。」 「いいじゃん。」
こうやって煽ってみる。 「あんまり塞いでると野菜を持って行かせるぞ。」
「やだやだ。 重たいのはやだ。」 「よしよし。 その調子。」
だんだん姉ちゃんが息を吹き返してきたから俺は野菜を置いて逃げる。
「ワー、待てーーーーーー! こらーーーーー!」 「本調子になったな。 頑張れーー!」
「何が頑張れーーーーよ!」 「今泣いたカラスがもう笑ったぞ。」
「カラスじゃないもん。 人間だもん。」 さっきまでしょぼくれていたあの顔は何だったんだろうねえ?


