はいはい、こちら中野通交番です。 ただいま就寝中。

 キンコンカン キンコンカン キンキンコンコン カンカンカン。
こんな夜に誰なんだろう? そっと玄関を開けてみると、、、。
 「やあ、元気かい?」 いつかの物真似芸人が鐘を打ちながら歩いておりましたわ。 売れないらしいねえ。
取り敢えず愛想笑いを返してやりますと姉ちゃんが出てきた。 「まあまあ、売れない貧乏芸人が何やってんのよ?」
 「姉ちゃん それは言い過ぎだよ。」 「いいの。 芸も無いくせに売って歩いてるんでしょう? うるさいだけだわ。」
「でも、、、。」 「ほっときなさい。 しょうもない芸を見せられるくらいならお母さんと喧嘩してた方がいいから。」
 「そこまで言うか、、、。」 っていうか、姉ちゃんが来た時には芸人は鐘を鳴らしながらどっかへ行ってしまった後なんだけど、、、。
「何だったの?」 旅行の準備をしていた母さんがのこのことやってきた。
 「ああ、お母さんには関係無いから騒がなくてもいいわよ。」 「あっそう。」
そう言われて母さんはまたまた父さんの隣に、、、。 旅行が待ち切れないようだねエ。
京都と大阪を巡ってから山陰に行くんだって。 「フルムーンだよね?」
父さんに聞いてみた。 「何を言うか。 ハネムーンだ。」
 大真面目な顔でそう言うものだから俺も姉ちゃんもひっくり返ってしまった。
「あのさあ、ハネムーンは新婚さんが、、、。」 「いいの。 私たちは新婚だから。」
「あっそう。 35年もくっ付いといてやっと新婚旅行ねえ。」 「お前たちも旅行くらいしたらどうだ?」
「大丈夫。 仕事が忙しくて暇が無いから。」 「暇くらいいくらでも有るだろう? 大した事件は起きないんだから。」
 「父ちゃん それを言ったらお終いだよ。」 「そっか。 まあ許せ。」
(ほんとにもう、、、父ちゃんは何も考えずに喋るからなあ。) 今夜もまた俺はハラハラしっぱなしなんだよ。
 「でもお前、五月のことが好きなんだろう? そろそろ二人だけで暮らさないか?」 「えーーーーー? 父ちゃん 何を言い出すの?」
「お前たち揃って冴えない姉弟なんだからちょうどいいだろう?」 「あらあら、お父さん 認めてくれるの?」
「わわわわわ、姉ちゃんまで何を言い出すんだよ?」 「ちょうどいい機会だからあたしらも二人きりになりましょうよ。」
 「じゃあおめでたいから結婚式をやりましょうか。」 「母ちゃんまで、、、。」
ってなわけで押し切られた俺たちは夫婦にされてしまったんでありますよ。 トホホ。

 翌朝、父さんと母さんは今までに見たことが無いくらい嬉しそうな顔で家を出て行きましたわ。 お幸せにねえ!
これから関空に行ってそこから大阪市内に入るんだとか、、、。 それにしても嬉しそうだったなあ。
 「ねえねえ、あたしたちも引っ越しましょうよ。」 「それはまだ先。」
「何で何で何で?」 「何も準備してないでしょうが。」
 「いいじゃん。 交番の二階も空いてるんだしもったいないじゃん。」 「あのなあ、あそこは仕事で使うことになってるの。」
「仕事で何に使うの?」 「えっと、、、それはだなあ、、、。」
「いいじゃん。 使う当てが無いんでしょう? だったら二部屋を使おうよ。」 「待て待て。 県警の許可が、、、。」
「それなら要らないわよ。 あんた警察官なんでしょう?」 「だからってそこまでは、、、。」
 しかし一度切り出すと引っ込まないのが姉ちゃんなんです。 突っ張り出すと面倒くさいから誰も相手にしません。
そんなこんなで姉ちゃんは交番への引っ越しを始めてしまいました。 どうするんだじょーーーー?
 スマホショップから台車を持ち出して部屋からの荷物を載せております。 「本気で引っ越すつもりなの?」
「そうよ。 あんたに一生可愛がってもらうんだから。」 (大変だな、こりゃ。)
 カラスが俺たちをじーーーーーーっと見詰めてます。 憐れに思ってるのかなあ?
目の前の通りはいつもと変わり無く争いごとも無いようですねえ。 交番の前のバス停もいつもと同じ、、、。
 「姉ちゃん姉ちゃん 待てってばよ。」 「なあに?」
「服だけ持って行く気か?」 「いいじゃない。 近いんだからさあ。 取りに来ればいいっしょ。」
「簡単に言うなよ。 大変なんだぞ。」 「いいからいいから。 頑張って。」
「何で俺が頑張るんだよ?」 「あたしを虐めてる罰よ。」
 姉ちゃんは大きなバッグを持って悠々と歩いていきますよ。 時々擦れ違うばあさんたちが不思議そうな眼で俺たちを見てます。
いいんだっての。 気にするなよ。

 それにしても今日はいい天気だ。 一人でのんびり過ごしたい。
でもそういうわけにはいかないみたいだねえ。 ああ残念。