あの日、あの時……煙が立ち昇る猟銃を抱えた馬の背の上で、アレクシスは目を疑うような光景に心を奪われていた。

 アレクシスと彼の猟友たちを前にして、彼女は凛と顔を上げ、怒りと悲しみとが入り混じった表情で言い放った。

『生きるために命をいただくのとは違う。遊戯としての狩猟なんて無意味な殺戮(さつりく)に過ぎません。もう……いいでしょう? あなたたちは今日、いったいどれだけ罪のない命を殺したの……!』

 猛獣をいとも簡単に手なづけた彼女は、まるで生命を無碍にする愚かな人間を憐れむように見下ろす女神のようであった。
 獲物を捉えるたびに自分の手柄だと騒ぎ立てていた猟友たちが鎮まりかえって固唾を飲み、手にした獣をまじまじと見据える——。

 それは半年前、エリアーナが父親とともにジークベルト家の領地を訪れた日の出来事であった。

 驚愕とともに、アレクシスは美しく成長した婚約者に猛然と見惚れた。
 そして彼女の言葉と怜悧な面差しに、すっかり心を射抜かれてしまったのだった。