食堂からさほど離れていない場所に、その商店はあった。
 歩いて五分ほどの距離がエリアーナにはとても長く感じられた。と言うのも、目的の場所に着くまでアレクシスと一度も会話を交わさなかったからだ。

 幾度となくエリアーナが見上げると、隣を歩く美丈夫はまっすぐに行先を見つめている。一度だけ目が合ったけれど、青灰色の瞳はどこか慌てた風にふいと目をそらせてしまうのだ。

 ——食事をしている時も同じだった。旦那様はよほど私と目を合わせたくないのですね。

 そんな悲しい気持ちをよそに、アレクシスはエリアーナが想像もつくはずのない感情と戦っていた。
 油断するとつい緩んでしまう口元を押さえ、表情を隠すように顔を逸らせる。

 ——可愛い……! 
 遠目で見ても可憐なのだが、間近で見るエリーの愛らしさは比べるべくもない。
 憂いに満ちた、すがるような目で俺を見上げてくる。
 感情がッ、厄介なことに抑えがきかない。正面に座っている間は愛おしさが暴れて本当にあぶなかった。
 何度か目が合った時など、この想いに気付かれたのではと……気が気じゃなかった。