屋敷の双扉をくぐれば、眩しいほどの陽の光に目をすがめ、額に手をかざした。
 てっきりアレクシスが馬車を待機させているものと思っていたのに、エントランス前の馬車受けは閑散としている。

 正門まで続く広々とした庭を見渡せば、軽快な蹄の音が近付いた。白い大きな影がゆっくりと屋敷のエントランスに近付いてくる。
 馬の嘶きが高らかに響けば、銀色のタテガミを靡かせた立派な白馬がエリアーナの視界をいっぱいにした。

「遅くなってすまない!」

 馬の背の上から艶やかな声を響かせ、まるで白薔薇を背負うように華々しく現れたのはアレクシス。
 その流麗な風貌は彼が『白薔薇の騎士』と呼ばれる由縁だ。

 腰元に携えた銀色の長剣に国王から賜ったしるしであるアストリア王国の紋章が見えた。
 白地に濃紺の刺繍をあしらった上質な礼装は、光を浴びてかがやくアレクシスの銀糸のような髪と青灰色の瞳に良く似合う。

 あっけにとられながら見惚れるエリアーナの目の前で颯爽と馬を降りると、鞍を後ろにずらし、立派な騎士はその手のひらをす、と差し出した。