『わたくしはもう知りません、勝手になさい!』

 アレクシスの名を出せば、諦めと呆れとが入り混じった顔でそう言われ、目の前でバタン! と扉を閉められてしまった。


 ——息巻くお義母様を説き伏せるのは簡単じゃないかも知れない。けれどお屋敷の改善をやり遂げて、こんな私にも出来ることがあると、少しでもジークベルト家の人たちに認めてもらいたい。
 それに……ここにいる意味を与えてくださった旦那様を、もうこれ以上、失望させたくない……っ。


 『明日の朝、十時。エントランス前で待っている』

 そう言ったアレクシスは、もう扉の向こう側にいるのだろうか。

 ——旦那様の手、綺麗であたたかかった。

 昨日はロザンヌを激怒させたエリアーナをかばってくれたのではないのか……初めて繋いだ手のひらの力強さを思うと、胸の奥がきゅんと痛む。