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 「行ってらっしゃいませ、若奥様」

 いつものようにメイドたちの行列に見送られ、エリアーナは屋敷の正面扉をくぐる。
 彼女たちは今朝も日が昇る前から屋敷中の掃除にいそしみ、エントランスホールの柱時計が十時の時報を打とうとしている今はすでに幾つもの仕事をこなしてきたはずだ。

 疲れていても無機質に表情を崩さない彼女たちを見て、エリアーナは胸の前で組んだ両手をぎゅ、と握りしめた。
 
 ——メイドさんたちがもっと人間らしく笑えるように、私も頑張りますから……!

 昨日の大騒動のあと、執務室を出たエリアーナは憤激の冷めやらぬロザンヌの部屋を訪れて頭を下げた。

 骨董や調度品は屋敷の改装のために一時的に運び出しただけだということ、使用人たちの労働改善案を出すようアレクシスに命じられたこと、生意気な口を聞いたことなど女主人に対する数々の無礼を心から詫びた——そして、大切な花瓶を落として割ってしまったことも。