「《《これ》》は……」

 繋がれたままの手に視線を落とせば、一瞬だけ見開かれた青灰色の瞳が慌てたふうに揺れる。五本の長い指が、ぱっ! と離れてエリアーナの右手がやっと自由になった。
 アレクシスはといえば離した手を背中の後ろに回して、きょとんと見上げるエリアーナの視線からおもむろに目を逸らせる。

「と、特に意味は無いッ……離すのを忘れていただけだ」
「そっ、そう……ですよね?」

 ——旦那様にとって、私と手を繋ぐことなんて何の意味も無いってわかっています。でも何だか、私を励ますように繋いでくださっていたような気がしたので……きっと気のせいですね。

 緊張が解けて安堵する気持ちの裏側で、いざ離れてしまえばどこか寂しいと訴える自分がいることをエリアーナは不思議に思うのだった。

「ちょっと待ってて」

 座れ、と視線で促されたので、二人掛けのスツールに浅く腰を下ろす。

 書卓脇に立つ背高いアレクシスの洗練された立ち居振る舞いはいちいち綺麗だ。それに薄灰色の髪色は、彼が好む白っぽい上着によく似合う。
 アレクシスは書卓の引き出しから《《何か》》を取り出すと、スツールに向かい、エリアーナの隣に腰を掛けた。