「……なるほど」
 小さくつぶやくように言い、アレクシスはきびすを返して広間を後にする。

 繋いだ手をまた引っぱられ、否応なしに長身の背中を追いかけた。かなりの身長差があるせいで手を引かれていると歩きにくい。

 立ち止まったのはアレクシスの書斎の扉の前——もちろんエリアーナがただの一度も足を踏み入れたことのない場所だ。

 ——ここで『罰』を言い渡されるの?

 いつも冷ややかな言葉と眼差しを向けてくる夫のこと、いったいどんな罰なんだろうと思うと心が縮んだ。
 繋いだ手のひらはこんなにあたたかいのに——。 

 双扉の片方が開かれ室内に入ると、まずは壁一面の棚にびっしり並ぶ本の数に圧倒された。

 アレクシスの執務室はこじんまりとしていて、窓際に置かれた書卓と肘掛け椅子の近くに二人掛けのスツールほと小卓が置かれている。普段は宰相補佐官として王宮に出仕しているのだから、広い書斎は必要ないのかもしれない。

「あの……」

 エリアーナが見上げると、アレクシスは「何だ?」と言いたげに眉をひそめる。