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 いったい何処に向かうのかと思っていると。
 玄関ホールの大階段を上がったところで突然に歩みが止まる。おかげでアレクシスの背中に額をぶつけそうになった。

 エリアーナが驚いて見上げれば、肩越しに振り返ったアレクシスが「シッ…」口元に人差し指をあてている。
 そのまま静かに廊下を歩けば、踊り場の先にある広間から談笑が漏れ聞こえた。

 開け放たれた扉の陰からそっと広間の中を覗きこむと、アレクシスの視線の先に床にぺたんと座る三人のメイドたちがいた。
 彼女たちの膝の上には作りかけのリボンとタッセルが見える。

「《《あれ》》は君の指図か?」
「はい……メイドの皆さんには、タッセルに飾りを縫い付けてほしいと頼みました」

 オレンジ色の夕陽が穏やかに差し込んで、メイドたちが座る広々とした空間はとても明るい。

 見られていることに気付かない彼女らは、時々談笑を交えながら縫い物を続けている。
 チクチクと縫い針を動かす指先は小気味が良い。仕事をさせられているというよりも、与えられた作業を楽しんでいるように見えた。