二ヶ月前の、結婚式当日。

 エリアーナの異能が発現していない事を知っても、侯爵は義母や親戚たちのようにあからさまに落胆を示したり暴言を吐いたりしなかった。
 それどころか、敬虔(けいけん)な信仰心を持つ彼は、蔑視を重ねる親戚たちの前でエリアーナを擁護してくれたのだ。


『似合いの夫婦だと招待客の皆が憧憬の眼差しを向けていたぞ? (わし)も鼻が高かった。花も恥じらう美貌のエリアーナちゃんを妻に迎えられたのだ、息子は幸せ者だよ。
 異能の事なら気にせずともよい。全ては天命の導きによるものだ。焦ることはない、時を待とう。』


 ——ふふ、花も恥じらうだなんて。侯爵様はご冗談が過ぎますね。
 でも……あの時かけてくださったお言葉はとても嬉しかった。


 無駄に広い部屋の細長いテーブルの端っこにひとりきりでぽつんと座っていると、自分以外の人間が存在しない世界にいるようで、ひどく心細い。

 侯爵はそんなエリアーナの寂しさを持ち前のウイットで和ませてくれる。
 侯爵と食事を摂る間のひと時は、ほとんど笑うことのない日常でエリアーナが唯一笑顔になれる時間だった。