夜風が窓際のカーテンを揺らし、卓上の一輪挿しに揺れる白薔薇の花びらが一枚、はらりと舞い落ちる。

「……どう書くべきかしら」

 書卓に頬杖をつきながら、長いあいだ頭を悩ませた。
 すらすらと滑るように文字を綴れることもあれば、書く内容によってはひどく時間がかかることもある。今夜は後者だ。

 ——私の下手な文章でネガティブな事を書けば、また心配させてしまうかもしれない。

 夫に愛人がいる事や、結婚してからエリアーナが自由のきかない孤独のなかで苦しんでいることを、手紙の宛名の人物『クロード・ロジエ』はよく知っている。

 世間的に忌み事とされる離縁を止めようとするのか、それとも同情して後押しをするのか。

 ——きっと大丈夫。
 クロードなら、私の想いに賛同してくれるはずだもの。

 淡い桃色の便箋はエリアーナのお気に入りだった。
 便箋と言っても、ごく小さな筒に入れることができるギリギリのサイズの薄い紙。一通に書ける文字だって限られている。