おぼつかない手でグラスの細い部分を持ち上げた。アレクシスのグラスが触れない程度に近づいて、すぐにすっと離れていく。
 がちゃりと勢いよくぶつける分厚いグラスは見知っているものの、薄張りの上質なグラスなどエリアーナの実家では見かけたことすらなかった。

 前を向いたまま、自分のグラスをそっと口元に持っていく。
 作法はこれで良かったろうか。
 父と亡き母に恥をかかせるような振る舞いをしていないだろうか——。

 そんな事を案じながらグラスを傾ければ、甘酸っぱい液体が舌の上にどっと流れ込んだ。驚いて「ごくり!」盛大に飲み込めば、喉の奥がかあっと熱くなってこほっ! 咳き込んでしまう。

「ひと息で飲んだのか?!」

 背中をさする手に驚いて顔をあげたとき、今夜初めてまともにアレクシスの顔を見た。
 宝石のような瞳が薄明かりに煌めいて、エリアーナを心配そうに見つめている。