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「髪留めと眼鏡は、いつか……ちゃんと返すから」

 額から形の良い唇が離れるのと同時に後頭部が大きな手のひらで包まれる。
 エリアーナの滑らかな額に頬を寄せ、レオンが囁いた。

 この状況をはたから見れば、レオンの抱擁を甘んじて受け入れているようにしか見えないだろう……エリアーナの気持ちなんてすっかり除け者にしたままで。

「!?」

 どん! と音が出そうなほど強く、ぶ厚い胸板を突き離した。
 嫌悪感と怖さが一気に押し寄せて言葉が出ない。ただ目の前にあるものから逃れたくて無我夢中だった。

「……な……に、するの」

 込み上げてくる怒りの感情が抑えきれずに平手を高く上げる。