「離縁計画は失敗しちゃったのだけど、お屋敷を騒がせた罰として、旦那様のお仕事に付き添うことになって」

「あー、何だか長くなりそうなお話ね。その先を聞く前にダイニングルームに行きましょ! 栄養補給の時間は限られているのよっ」

 
 *


 昼食を済ませたふたりが廊下を歩いていると、正面から嫌な顔ぶれがやってきた。
 常に三人の女生徒の中心にいるのはジゼル・レディー・ライラック——学園のマドンナとも称される美人だ。

「あら……廊下が陰湿な空気に包まれていると思いましたら、あなたがたお二人でしたのね」

 巻いた紫色の髪が彼女の肩でふわりと跳ねる。
 ローズレッドの瞳は大きなアーモンド型をしているが、明らかに敵意に満ちている。
 つかつかと目の前までやってくると、ジゼルはお決まりのように腕を組み、エリアーナを憮然と睨め付けるように目を眇めた。

「魔法も使えない落ちこぼれで学園きっての遅刻魔が……今日は《《人間の顔》》をしていて安心しましたわ。でもその髪型、その風貌も。仮にも名門学園の生徒なのだから、身なりに少しは気を配られたらどうかしら?」