「午後を乗り切る気力と体力を養う大事な時間に溜息なんかついちゃって。今日はどうしたの?」

 おもむろにエリアーナに頬を寄せ、「またあの怖いお義母様に叱られた?」こそりと問いかける。

「そうだ、先週話してた離縁計画はどうなった?! もしかして《《それ》》が原因??」

 しいっ、とエリアーナは人差し指を口元にあてる。

「アン……。いいえ、ちがうの」

 エリアーナがジークベルト侯爵家子息の奥方だと知るのは義母の友人である学園長と同級生のアンだけだ。
 プライドが高い義母ロザンヌは、異能目的で子息と政略結婚させた嫁が無能であることを一族の恥さらしだと言う。
 エリアーナに偽名まで使わせて、せめてもの気休めにとこの魔術学園に通わせはじめたものの、『王の眼』の異能が開花しそうな様子は少しも見受けられないのだった。