慌てて離れようとするものの、体に力が入らない。

「別にこのままでいい」

そう言った左京くんは黙って私を持ち上げた。

「いや、でもっ…」

「離したところでどうせ倒れる」

ぐうの音も出ない。

ほぼ間違いなく言葉の通りになる。

左京くんは私を抱えたまま、歩き出してしまった。

私の膝の裏と背中に左京くんの手がまわっている。

これって、お姫様抱っこなのでは…?

「さ、左京くん!どこ行くの?」

「保健室。このまま競技出らんないだろ」

左京くんが気まずそうに私から目線をそらした。

「あ…ごめん、」

返事をせずに左京くんは歩き続けた。

「…チッ」

歩き出して少し経った頃、頭上から舌打ちが聞こえた。

上を見ると左京くんが険しい顔をしていた。

「邪魔なんだけど」

左京くんの言葉の先にはたくさんの女子の群れがあった。

左京くんがお姫様抱っこしている状況と、お姫様抱っこされている相手を見に来たのだろう。