ぎゅっと麗日の大きな背中に手を回す。

自分から甘えるのは今日が初めてだな……と思っていると、彼はくすっと微笑んだ。



「今日は甘えたい気分?」



その余裕に沼り、もう抜け出せない。

なにも言わないで抱きしめていると、麗日はわたしの耳に噛み付く。


「……っ、ひゃ、」

「あ、ごめんつい噛んじゃった」


「……?!」



無意識……?!

真っ赤になったであろうわたしの耳を、またもや噛み付いてくるあたり、確信犯。


麗日に触れられるのは、まったく不快じゃない。

触れられていると、安心する。


わたしを大事だと思ってくれているであろう優しい手つきを、離せなくなっていく。



「うる」


突然名前を呼ばれ、少し彼から身体を離して顔を見る。

慈愛の瞳で見つめてくる麗日を見返していると、彼はこう言った。



「どこにも行くなよ」



困ったようにそう言われ、思わず言葉に詰まった。

当たり前だよ、と返したいのに、うまく言葉が出てこない。



麗日のそば以外に、もう行くところなんてないくせに。



「…………うん」



そっと頷くと、彼はわたしの頭をぽんぽんと撫でてから微笑んだ。


その笑みは極上に美しかったけれど、どこか寂しげな表情をしていたように見えたのは、きっとわたしの気のせいじゃないと思った。