噂では、もっと恐怖や憎悪を纏うイメージがあったから、少しだけ拍子抜けしてしまう。
……しかも、拾ったって、なに。
「……帰ります」
一刻も早くこの男から逃れたい。
そう思うのに、片眉をあげる彼に魅せられて覇気のない声が口から漏れた。
「やっと喋った」
ククッと笑う男は、なんの予知もなく、わたしの頭に手を置く。
冷えきった心に、じわっと温かさが胸をくすぐった。
【レイ】は、無慈悲に見えない柔らかい声で、
子どもをあやすように問いかけてくる。
「お前、自分が死んだ目してんの、自覚してる?」
ぜんぶ知ったような口。
「……放っておいてください」
「おうおう。
気の強えー女は嫌いじゃない」
……なに言ってるんだろう、この人は。
飄々としていて、掴めない。
もう、ペースはあっちのものだ。



