全身、色のない真っ黒の服。
それに反抗するかのような、鮮やかな銀髪。
もはや白いに近い銀色が、霞んでいるようにも輝いているようにも見えた。
一度捉えたら離さない狼のような瞳。
甘い匂いを仄めかす、煙草を咥える歪んだ唇こそも、危険すぎる匂いがした。
場違いだとわかっているけれど、あまりにも綺麗な顔に思わず見惚れてしまう。
こんなに綺麗な人、見たことがない。
彼の手によって搔きあげられた銀髪が、わたしに毒を回す。
「お前、俺がもらってやろうか?」
……正気じゃない、心底そう思った。
ひとことも話さないわたしを……、この人は連れ去ろうとしているの?
有り得ない。
この人の言動にも、それを許してしまうこの世界にも。



