Hush night


弱音なんかじゃない。

慌ててゴシゴシと目を擦る。


……やだ、どうして泣いてるの、わたし。


何年振りかわからない涙を見せまいと思っていたのに、麗日はわたしの腕を掴んだ。



「やめろ。目腫れる」

「……っ、」


水に溺れたみたいに苦しくて、ずっとここにいたくて、過呼吸気味になる。

荒い息を繰り返すわたしをじっと見ていた麗日は、優しくそっと抱きしめてくれる。



「俺の服濡らしていいから、好きなだけ泣きな」



どうして……そんな言葉をかけてくるの?

得体の知れないわたしなんかに。



あなたは一体、何を考えているの……?



相手は【レイ】なのに、ここまで心の中に侵入してくるなんて。

わからない。自分も、相手も、この涙も。



ただ、叶うのならばこのままここで、彼とだけ関わって生きていけたらと思う。


もう、戻りたくない。日常なんかに戻れない。


麗日の手を取ってしまったわたしは────きっと罪悪だ。