忘れたいこと、知らない振りしたいこと。
忌々しい記憶だって、もう無かったことにしてしまいたい。
麗日といるときは、その優しさに縋りたいと思ってしまう。
いつか、後悔するのはわかってるのに。
「ん、ちゃんと飲めよ」
わたしが何か考え込んでいるのは見ていたはずだけど、そうやって隙間に思いやった言葉を入れてくれるから。
こくりと頷いて用意してくれた水で、薬を含んだ。
…………、苦い。
思わず顔を顰めると、麗日は途端に笑い出して「不味いだろ?」と尋ねてきた。
「み、水……!」
これ、ほんとにちゃんとした薬なの?
錠剤なのに苦いってどういうこと……?
苦すぎて、慌てて余分の水を麗日に要求するとなんだか嬉しそうにグラスを渡された。
「ちゃんと効くから安心しろって」
なんとか不味さを消し、ひと息ついたわたしにそう言うと、麗日はまた微笑んだ。
「ちゃんと、感情表に出せるようになったじゃん」



