弾さんの後ろ姿をぼーっと見つめていると、麗日は抱擁していた腕を離し、わたしの顔を覗きこんできた。
「なんか言われた?」
弾さんのことだろう。
不安げに眉を下げる麗日が、なんだか子犬みたいでかわいい。
きっとどんな逆境にも屈しないこの男が、こんな表情を見せるなんて……こんなの知ったら、他の女の人が放っておかないと思う。
不覚にもときめきそうになった心を落ち着かせ、首を横に振る。
「ん、ならいい」
わたしが言葉を発しなくても、満足そうに微笑んでくれる麗日。
まだ会って数時間なのに、なぜか居心地がいいだなんて感じてしまった。
「入りな」
麗日の部屋はこのマンションの18階だった。
高いところから眺める、深夜都会のネオン色はなんとも言えない深みがあった。
あの雑踏の中に───“ あの男 ” が紛れているんだ。
ゴクリと息を飲みながらそれを見下ろしているわたしに麗日は優しく声をかけてくれた。



