Hush night


どんどん離れて行く麗日を眺めていると、突如彼は組員さんたちのホールドから抜け出してわたしの目の前に現れた。

ひっくりするわたしの頬を包み、悪戯な表情で麗日は言う。


「唇傷のせいで痛いけど、ちょっとだけ」


触れるだけのキスは、少しのしょっぱさが混じっていたけれど。

すぐに離れたのが寂しくて、思わずまた重ねてしまう。


求め、求められるその愛は。

深くぬるい沼へと落っこちて行く。



「雨瑠さ、可愛いことするのやめて」



愛おしそうに頬を撫でられ、じっと見つめて欲してしまう。

低い声が鼓膜を震わせて心が満たされる。



いまは離れなければならない、そう思うのに離れられない。

自分に芽生える矛盾と葛藤していると、麗日はふっと微笑んだ。



「帰ってからな」



余裕のある笑みがなによりも綺麗だった。

こくりと頷き、見つめ合っていれば、またもや麗日は組員さんたちに心配そうな目で見られている。


「雨瑠がそばにいるって思っただけで、こんな怪我1日で完治するわ」

「それは……難しい、かもだよ」


「いける。てかまじで治る。だから病院戻る」



ぽん、とわたしの頭に大きな手を乗せ、麗日は美しく微笑んだ。

あの夜出会ったときのような儚さと輝きを持って、わたしを見つめてくれている。


麗日と過ごした時間は、全て麗しい日だ。

褪せることない色を、これからも足していきたいと思う。