父はその場にいる全員に頭を下げた。
父が頭を下げているところは、見たことがなかった。
威厳があり、誰もが平伏すような人だから。
組員たちは父のまさかの行動に、焦ったように勢いよく首を横に振っている。
兄は、そんな父を呆然と眺め、悲しげに言った。
「……ちがう、俺が、才能あるレイに嫉妬したのが悪かったんだ、」
ぽつりと呟いた兄は、小さい声で続ける。
「父さんに信頼されているレイが、羨ましくて仕方がなかった……俺にはないものをたくさん持っていて、簡単に組頭に任命されるレイに嫉妬していた」
自嘲気味に兄が微笑んだ。
父は何も言わずに兄を見ている。
そして、それまで黙って聞いていた麗日が重い口を開いて言った。
「もっと自分を誇れよ、スイ」
「……は、」
麗日の言葉に首を傾げる兄に、麗日は構わず続ける。
「スイは、獅童さんの大切な息子なんだよ。俺は、それがずっと羨ましかった」
「……え、」
麗日の口から“羨ましい”という単語が出てきたことに、兄は目を見開いた。
麗日は何にも干渉することなく、孤高のトップ【レイ】だと皆が崇める存在。
そんな人が自分のことを羨ましいと言うのだから、驚いて当然だろう。



