Hush night




もう拳を振り翳すことなく、父は兄を見下ろしていた。

父の言葉に、わたしも涙がぼろぼろ落ちていく。


いつも、わたしはひとりだった。

父は仕事だと言ってそばにおらず、母は父に愛人がいたと知ると愛想を尽かして出て行ってしまった。

兄に殴られ蹴られる日々の中、誰にも助けを求めることが出来なかった。


苦しくてもがいても、誰も気付いてくれなかった。



緊迫した空気の中、わたしと兄が啜り泣く音だけが響いていた。


「だって……父さんが! 息子の俺じゃなくてレイを選んだから……っ」



止まることなく溢れ出して来る涙を拭うことなく、兄は父に言葉をぶつける。



「父さんに見放されたと思ったんだ! 俺が出来損ない人間だから……っ」

「李水」


「レイと一緒に歩いている父さんを見るのが辛かった! 劣等感で苦しかった……!」

「……李水」


「俺なんか必要ないと言われているようで、辛かったんだ……っ!」



「……だからと言って、雨瑠を傷付けて良いわけないだろう!」