『お願いだから、うるはここにいて』
麗日との約束は、守れそうになかった。
闇に溶け込む黒い服を纏い、自ら家を出た。
わたしに渡されていた合鍵は、彼の部屋のポストに入れておく。
……もう、ここに帰ってくることはないだろう。
胸がじんと疼き、勝手に涙が零れ落ちる。
────ああ、もう、やめよう。
嘘を吐くのは、もう、やめだ。
麗日をこれ以上傷つけないためにも、わたしはここを去らなければならない。
覚悟を決め、麗日の匂いの残る廊下を後にして、急いで階段を駆け降りた。
わたしがいた形跡を残さぬように、音を立てぬように、ひっそりと。
そうしなければならない理由は、簡単だった。



