その日常が、どれほど特別なことか、もっと噛みしめておくべきだったのかもしれない。
「俺、もう行かないと」
浮かない顔をして、麗日はわたしをじっと見つめてくる。
「すぐ帰ってくるから。待っててな」
言い聞かせるようにそう声をかけてくる麗日に、こくりと頷いた。
彼が言うなら、本当にすぐ帰ってくるんだろうな……と考える。
麗日の行動までわかってしまうようになっている自分に、少し心の中で驚いた。
「……いってらっしゃい」
スーツに着替えて出て行こうとする麗日の背中に声をかける。
すると、くるりと振り向いた麗日がわたし目がけて歩いてきたと思えば。
躊躇いもなく、
ぎゅーっと強い力で抱きしめながら言うのだった。
「ん、いってきます」
───そんな日常が儚く散っていく未来が刻一刻と迫っていたことは、誰よりもわたしがわかっていたのかもしれない。



