「うる、隣来て」
そっとわたしの頰に触れながら、彼はそう言った。
ぽん、と彼の片手がソファを叩く。
言うとおりに彼の隣に座れば、息する間もなく唇が重なった。
貪るようなキスをしながら、ふたりしてソファに沈む。
「何も考えなくて良いから」
────“雑念なんかとっとと捨てろ”
出会ったときに言われた言葉と重なる。
全て捨ててしまえれば、どれほど楽だろう。
どれほど幸せだろう。
荒い息の中、苦しくも満ちていく心を見て見ぬふりをして、ただ目の前の彼に夢中になる。
「この先もずっと、俺のことだけ考えてたらいいんだよ」
その言葉が何を意味するのか、このときはまだわかっていなかった。
人生というものを大いに諦めていたわたしは、少し強引な麗日の口調に安心感を抱いていた。



