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「んっ、……」
手放していた意識を掴み、焦点を合わせる。
ここは……、どこ?
なんだか揺られているような─── 。
不安になりながらも、先程の出来事を思い出す。
触れるだけの、だけど思い出すだけで恥ずかしい、濃厚な甘いキス。
わたし……、それで気絶して……。
男の人に慣れてないということを彼に気付かれたのは確実だ。
唇も、彼の煙草の香りがほのかに残っている。
わたしにもこんなに純情な気持ちがあったのかと思うけど、なんたって……男の人と唇を交わすなんて初めてのことだから。
動揺したって仕方のない話だ。
……彼は、わたしよりずっと大人だ。
あんな、キス───夢中になってしまう、そんな予感がした。
……と、そんなことを考えていたら、彼に出会う前の忌々しい出来事は頭の隅に追いやられていた。



