Stayhere! 上司は××××で御曹司

 春になり、ななみは、正社員試験を受け、晴れてロックアウト社の正社員になることができた。相変わらず、原稿に赤は入るけれど、書き直して、OKをもらえるまでの時間は随分、縮まった。まだまだ課題はいっぱいあるが、この先に何があるか見てみたい、そんな風に思うようになった。
 今夜は、ななみのバーのバイト終わりに、編集長が迎えに来てくれた。さっきまで編集部で忙しかっただろうに、と思いながら、運転席の編集長の横顔を見る。
「なんだよ。やっぱ恰好いいなあ、とか思ってんのか?」
 にやけながら、編集長が言う。
「うわ。自分で言うとこがすごいですねえ」
 ふん、と言いながら、編集長は、スマホをななみに渡した。
「新曲が入ってる。聴くか?」
「え!聴きます!」
 マスクドキングの新曲だ。聴かないわけがない。スマホを操作して、音を鳴らすと、ガツンと恰好のいい曲が流れてきた。ななみは、興奮した。
「すごい!いいですね、これ」
「だろ?俺も仕上がりが気に入ってんだ」
 二人で、黙って鳴り響く音楽を聴いた。曲の終わりに、ななみは呟いた。
「あー…キングの新曲レビュー、いつになったら私、書けるんだろ…」
「まあ、まだ、ダメだな。だが、お前なら、きっともうすぐ、すごいのが書けるようになる」
「そうでしょうか…」
 自分では分からない。でも、編集長がそう言ってくれるなら、気持ちも膨らんでくる。
「そうだ。お前の書く文章は、人を感動させるものがある。書いて書いてすごいライターになるよう、俺が仕込む。だって俺は」
 編集長は、にやっと笑った。
「俺は、『北条ななみ』のファンだからな」

                                         〈了〉