拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています

 ザイオンはこれに異を唱えるでも、賛同を示すでもなく、やけに人間らしい仕草でヒョイとひとつ肩をそびやかして見せた。
 俺の闘志が満ち満ちる室内には、いまだ降り止まぬ雨音が響いていた。

***

 ──ザアザアと降りしきる雨の音が耳を打つ。
 横殴りの風雨を受けた窓も、時折ガタガタと不穏な音を立てる。
 それらの音を、浮上しかけた意識が拾う。
 幾度か瞬きを繰り返し、俺は深く重い追想から目覚めた。
 ……夢、か。
 鈍く痛む頭を緩く振り、寝台から半身を起こす。横目に見たザイオンは、寝入った時よりも中央寄りに位置を移し、悠々と惰眠を貪っていた。
「……まったく。人の気も知らず、暢気なものだ」
 魔力を封印した、十四歳の〝あの日〟。
 同年に父王が死去し、それに伴って叔父でありジェニスの父でもあるジンガルドに王位を奪われた時も。叔父の策略で近隣諸国との戦で先陣に立たされた時も。あの日以降、俺は宣言通り一度として魔力を使わず、己の腕と知略でもって立ち回り乗り越えてきた。