「なんだって!? 王家が執った虎の子施策が自分らが追い落とした公爵様の案だとは笑い種だね。あたしゃね、王太子時代のグレンバラ公爵と市民交流会の席でお話したことがあるんだ。まだ十代半ばにもなっちゃいなかったが、民思いで利発なお方でね。この方の御世なら安心だと思ったもんさ。グレンバラ公爵が王位に就かれていたら──」
「シィッ! それ以上はお止めよ。巡回中の警邏にでも聞かれちゃことだ」
 横から鋭く窘められて、婦人は慌てて口を噤んだ。
「おっと、そうだったね」
 女性グループは周囲の目を気にしつつ、そそくさとその場を去っていく。
 ……まさか、こういう形でファルザード様の名前を聞くことになるなんて。
 熱病もさることながら、王家の置かれた状況は、私が想像する以上に悪いのかもしれない。女性たちの会話から、苦しい我が国と王家の実情が嫌でも垣間見えた。