拝啓、親愛なるお姉様。裏切られた私は王妃になって溺愛されています

「いえ。お母様、私は……」
 緩く首を横に振りながら、これまで私の特性を理解して温かく見守っていてくれたお母様も、内心では社交の場に出てほしいと望んでいる。垣間見えたお母様の本音に、胸がきゅっと苦しくなった。
「これはあなたにとっても、いいチャンスだと思うの。社交の練習のいい機会だと思って、行ってみない?」
 さらに畳みかけてくるお母様になんと言って納得してもらおうかと私が思案していると、先に馬車に乗り込んでいたお姉様が口を開いた。
「お母様、そもそも社交というのは練習して無理にこなすものではないと思うわ」
「マリエンヌ?」
「貴族に生まれたからと社交界で生きる道だけがすべてじゃないでしょう。ほら、お母様も女流画家エレザ・ブランジュの絵画が好きで集めているでしょう? 伯爵令嬢として生まれついた彼女が、家族の反対を押し切って家を出て師匠に弟子入りし、画家として大成したというのは有名な話よ。女流ヴァイオリニストのレミール・ルスランだって男爵家の出身だわ」