〇夢の中



識「あんり、好きだ。おまえのためにこの金を使いたい」


識の後ろには札束や宝石が大量に置かれている。
そんなお金に目を¥マークにし、ふわあぁぁ~!!と変な声を出すあんり。
札束の海にダイブしぐへへと埋もれていると、ドンッ!と衝撃があんりを襲う。

ばちりと目を開けたあんりは、ベッドから地面へ転がり落ちていた。
ジリリリ…と目覚まし時計が鳴っている。

床に突っ伏すあんりが引きで映る。





〇講堂・舞台の上に数人いる・一年生しかいない



東條 郁(とうじょう かおる)
金髪で、優しい雰囲気のイケメン。
大物政治家の息子。赤ネクタイ。


郁「みんなおはよう。生徒会長の東條郁です。関わることは少ないかもしれないけど、よろしくね」


演台に立った柔和な微笑みを浮かべるイケメンに、生徒たちは黄色い歓声をあげた。
あんりはあ!と目を輝かせる。


あんり(大物政治家の息子、東條郁。王子様第二候補ね!)


政治家もありだよなぁ…とお金に埋もれる姿を想像するあんり。
その流れで今朝見た夢の「好きだ」と言われた部分を思い出してしまう。
ハッとなり、小さく頭を横に振ってそれを消す。


あんり(なんでそっちを思い出すの……)

郁「新入生の入学に伴い、生徒会指名を行います」


そのまま郁が説明しだした。


郁「この学園には、生徒会指名制度が存在します。毎年二名の生徒が生徒会へ加入しますが、うち一名は学年主席、もう一名は主席が指名した生徒になります」
あんり(主席。つまり、地位、成績共に学年一ということ。そんなの人たちが集まる生徒会、入りたいに決まってる!けど…)


ちら、と舞台の端に立つ識に視線をやるあんり。


あんり(鷹宮識かぁ、諦めるしかなさそうだな)


残念、と肩をおとすあんり。
郁に代わり識が演台に上がった。


識「指名する生徒は、___灰音あんりです」
あんり「…えっ?」


まさか名前を呼ばれるとは思わず、パッと顔を上げるあんり。
思いもよらなかった指名に、生徒たちはあんりに視線を注いだ。
先生たちもざわざわとしている。


あんり(な、なんで…!?)


驚きを隠せない表情を浮かべるあんり。
郁の「鷹宮くんと指名された灰音さんは放課後生徒会室へ__」という声が意識の外で聞こえている。



〇お昼休み・食堂(カフェテリア)



栄華学園の昼食は学園内の大きな食堂。
洋食、和食、中華などいろいろな食事が用意されていて、ほぼレストランのようなかんじ。


あんり「あぁぁ~、視線が痛い……」
黒子「面倒なことになったわね、あんり」
あんり「ほんとだよ~!」


午前中の生徒会指名があってから、あんりに刺さるのは嫉妬の視線。
昼食の間にもビシバシ見られるため、あんりはデザートのケーキを食べながら文句を言う。
でも、たいして気にしてはない様子。


あんり「前代未聞の一般生徒の生徒会加入…。そりゃこの反応にもなるよねぇ」
黒子「あら、いいじゃない。そこらへんのお金持ちよりあんりのほうが優秀よ」


周りの目も気にせず、紅茶をすすりながらそう言った黒子。
ツンとした表情が美しく描かれる。

あんりは自分の容姿にも成績にも自信があるため、「うーん、そうだけどさぁ」とケーキをほおばる。


あんり(厄介なことが起こりそうだな~)



〇放課後・生徒会室へ向かう途中・階段の暗い踊り場



あんりは女子生徒3人に、壁へと追いやられていた。
「ほらみたことか!!」と嘆きそうな表情を浮かべるあんり。


女子生徒A「あなた、一般生徒ですよね?」
あんり「そうです、ケド……」
女子生徒B「じゃあなぜ識様はあなたを指名しましたの?」
女子生徒C「何か姑息な手を使ったのではなくて?」
女子生徒A「しかもあなた、識様に靴を当てた子じゃない!?」
女子生徒C「なっ、まさか、本当にそんなことを!??」


怒涛な勢いの質問に、あんりはうわぁとめんどくさそうな顔をした。
否、実際めんどくさいのである。


あんりM「女の子の嫉妬ほどめんどくさいものはない…が、こんなもの慣れっこだ」


「聞いているの?」「答えなさいよ!」と怒った女子生徒の声を副音声に、あんりは周りを確認する。


あんり(連れてこられた時に確認したけど、監視カメラはなし。人けも少ない。相手は生粋のお嬢様で、手を出されても権力で潰される……)
あんり(だからお金持ちは嫌いなのよ)


はぁ、とあんりはため息をつく。
そして、これ以上ないほど華やかな笑顔を浮かべた。


あんり「何を勘違いされているのかわかりませんが、あの鷹宮識様が本気で私を指名なんてするはあずがないじゃありませんか!きっと、その寛大な真心で一般生徒である私たち生徒の地位を支えてくださっているんですよ。やはり素晴らしいお方ですよね、私たちのような下位の存在にも目を配られておいでなんて。私も選ばれたからには、彼とこの学園のために力を尽くさなければ…!!」


早口でそれっぽい言葉をぺらぺらと連ねるあんりに、女子生徒3人はぽかんとした。
彼女たちは顔互い顔を見合わせると、「そうですよね!識様は素敵なお方ですよね!」と言って去っていった。

ふぅ、と額の汗をぬぐうしぐさをしたあんりに、「おい」と声がかかった。
見れば話しに出ていた識である。


識「なんだあの適当な褒め言葉は。気持ち悪い」
あんり「あれ、聞いてたんだ?」


聞いてたなら助けてよ~と言うあんりに嫌そうに眉を寄せ、無視して、識は歩き始めた。
あんりはその後を追う。


あんり「今から生徒会室行くんだよね?一緒していい?」
識「いいなんて言うと思うか?」
あんり「うん!ありがと~」
識「ふざけるな。おまえと馴れ合うつもりはない」


ぎろりと鋭い視線をあんりに向ける識。
あんりは、ぱちりと目を瞬かせる。


あんり「でも、私は仲良くしたいよ?」


こてんと首を傾げて言うあんりに、識ははあ?という顔をした。


あんり「それに、一年生の生徒会は2人だけだし。よろしくね、鷹宮くん」


握手を求めたあんりをまたもや無視し、歩いていく識。
そんな彼にあんりは気にした様子もなく、「もー、つれないなぁ」と頬を膨らます。



〇生徒会室



床一面レッドカーペットが敷かれ、ソファやテーブル、奥には生徒会長用の革のチェアと机が置かれている。
賞状やトロフィーなんかも飾られていた。
アンティークを基調とした、豪華で整った部屋。

入室したとたん2人はソファに座らされ、紅茶を出される。
そして2人の前に座った郁。


郁「ようこそ生徒会へ、灰音さん。識くんは久しぶりだね?」
識「…軽々しく名前で呼ばないでください」
あんり(久しぶり…?)


2人の会話に、首を傾げたあんり。
識の睨みつけるような瞳に郁は気にせずにこにこしている。


あんり「お2人は知り合いなんですか?」
郁「知り合いというか、ほぼ弟というか」
識「でたらめ言うのやめてください。親同士の仲が良いだけだ」
郁「相変わらずですね、識くんは」


やれやれと肩をすくめる郁に、識はふん、とすましていた。


あんり(ほう、鷹宮家と東條家がねぇ。それはおいしいことを聞いたわ…!!)


と、あんりは相変わらずであった。

そして識は、ズバリと切り込んで「要件はなんですか」と郁の言葉を催促する。
識の態度に「一応僕は生徒会長なんだけどね」と小言をもらすも、咎めたりはしなかった。
さて、と彼が話を切り出す。


郁「この学園では新入生の歓迎会としてダンスパーティを行うのですが、そこでやってほしい仕事があります」
あんり(げ、ダンス…?!)
郁「新入生代表として、お2人でダンスをしてください」


ドーーンと、なんの曇りもない笑みで言い放つ郁。
そして少しの沈黙のあと、生徒会室に「はああぁぁ!!???」とあんりの叫び声が響いた。


あんり「な、なんでですか!!」
郁「そういう仕事です。毎年恒例ですよ」
あんり「強制ですか…!?」


郁は何も答えなかったが、にこりとした笑顔に圧を感じたあんりはええぇ、とうなだれる。
すると横のソファで冷たい視線をあんりへと向けていた識が口を開いた。


識「まさかダンスができないのか」
あんり「はぁ?別にでき、………」
あんり(る、なんてとても言えない!!!)


あんりは、これまでのことを想像する。
思い浮かぶのは、ダンスをして躓いたり、相手の足を踏んだり、転んだりしているところ。


あんり(ほかに苦手なことなんてないのに、なんでダンスだけ…!!)


とあんりは、いるかもわからない神様を睨んだ。
怒ったり青くなったり変なところを睨んだりしていたあんりを怪訝そうに見ていた識。


識「できないというなら仕方ない。おまえを選んだのが間違いだったという訳だ」


紅茶をすすりながら目を伏せて言った識の言葉にカチンとしたあんり。
郁は気を使ったように「できないのであれば無理には」と言ったが、あんりはテーブルに手をつき身を乗り出した。


あんり「できます!…いや、できるようになります!!」


その迫力に、少し目を見開いた郁。
あんりは、ビシッと識を指差した。


あんり「この人と踊るのはなんか癪ですけど。……私にできないことはありません」


ぴしゃりとそう言い放ったあんり。
識は「人を指差すな」と睨みつけた。
そんな2人を見て、郁はまた笑顔になった。


郁「そうですか。では、お願いします」
あんり「はい!」
郁「今日はもう結構ですよ。わざわざありがとうございました」


郁にそう言われて2人は立ち上がったが、「あ、識くんは居残りです」と言われた識はため息をついてもう一度座った。
あんりはお辞儀をしてから部屋を出る。


あんり「と、とりあえず、黒子に電話しよう……」


ああ言ったものの自信はないあんりは、黒子に電話を掛けることに。






〇生徒会室・識が残った部屋では



郁「面白いですね、彼女。君が指名した理由もわかります」
識「…そんな私的感情で指名などしていませんが」
郁「へぇ。では、なにが目的なのでしょう」
識「…」


答えるつもりがないのか、紅茶をすする識。
郁は気にせず笑顔のまま、書類をパサリとテーブルへ出す。


郁「灰音あんり、今年度新入生の次席。一般生徒にしては最高クラスの整った教育を受けている不思議な生徒…」


カチャンと音をたてて識がティーカップをソーサーへと戻した。


識「なにが言いたいんですか」
郁「なにも。…ですが、あまり深入りしないほうがいいかもしれません」


冷たい瞳で郁を見やる識と、何食わぬ様子で笑う郁。
識はまた冷たく、「あなたには関係ない」と言い放った。



〇廊下・電話中のあんり



あんり「黒子も見たことあるでしょ!?あの私のひっどいダンス!」
黒子「まぁ、……そうね。でもあんりなら、すぐできるようになるわよ」
あんり「黒子にフォローされるほどヘタなのか…」
黒子「あいにく私、男じゃないから手伝えないわね」
あんり「そんなこと言わないで~」


しくしくと嘘泣きをしつつ、はぁと肩をおとした。
黒子は、「噂の王子様と練習しなさい」と少しツンとした様子。

その時、ガチャリと生徒会室の扉が開く。
出できたのは識で、あんりを見つけると「まだいたのか」と言った。


あんり「え、えっと、ちょっと作戦会議…?」


スマホを片手にそう言えば、端末からは電話が切られて「ツーツー」と無機質な音が聞こえてきた。
あんりは、もー黒子ぉ!と心の中で嘆く。
それを横目に識がさっさと去ろうとしていたため、あんりは「待って!」と腕の裾を引っ張って止める。
識は不機嫌そうだが無表情で「なんだ」と言う。


あんり(こいつに教わるのはなんかムカつくけど…)
あんり「ダンスの練習、付き合って。………おねがい」※ぎゅ、と引っ張る力を強める


しばらくの沈黙が続いた後、だめかなと思っていると上から「5日だ」と声がかかった。


あんり「え?」
識「俺が付き合えるのは5日間。それまでに仕上げろ」
あんり「あ、ありがとう……」


裾を離したあんりにふん、と視線を送って歩いていく識。
それを見て、あんりは「あいつ、ツンデレか?」と首を傾げた。


M「シンデレラは舞踏会(ダンスパーティ)にて、王子様と踊ることになりました。ダンスレッスンが始まろうとしています」