「俺はもう、遠慮はしないよ?」


鳴海のその一言で、新婚生活が始まって以来、ずっと別々だった寝室が一緒になった。

私は何だか複雑な気分になる。


離婚届を見た時、あんなに鳴海を必要だと思ったのに…。

鳴海への気持ちは、確実だと思ったのに…。

こうして元に戻ると、そんなに必要じゃないような、鳴海に対する罪悪感さえ沸いてくる…。

だって、あのCDも…
哲平から貰った手紙も、思い出として懐かしむなんてまだ出来ない。


段ボールの中に封印されたままだ…。


そんなある日、お義母さんがやって来た。


「久し振りね、綾香さん」

「ご無沙汰してます」

「高橋さんから聞いたけど…。貴女、今大学には行ってないの?」

「…はい」


私は気まずい思いでいっぱいだったけど、お義母さんは言った。


「行きたくないなら、辞めてもいいのよ?」

「えっ?」


お義母さんの物わかりのいい言葉に、一瞬驚いた。

同じお金持ちでも、見栄とか、体裁とか気にしない人もいるんだ…。


「辞めてもいいんだけど、私、孫が欲しいの」

「…はい」


何だ、そういう事か…。